アキバのつぶやき

2025.12.11

残価という希望的観測に注意

 最近、「残価設定型住宅ローン」という耳慣れない言葉をよく目にするようになりました。自動車ではすでに一般的になりつつある仕組みを、住宅にも応用しようという発想です。

 月々の返済額を抑えながら、少し背伸びした住まいを手に入れやすくする。聞こえはとても魅力的です。しかし、住宅とクルマの決定的な違いは「市場の前提条件」にあります。

 クルマは時間の経過とともに価値が下がることを前提にした商品設計です。一方、日本の住宅市場は、建物価値がほぼ確実に下落するという歴史的な経験則の上に成り立っています。つまり、残価設定型という仕組みは、日本の住宅市場においては「合理的な金融商品」というよりも「希望的観測を組み込んだ販売装置」に近い性格を持っているように見えます。

 さらに、日本は人口減少と空き家増加という構造変化の真っただ中にあります。需要が縮小する市場で将来価値を前提にするというのは、「坂道を登りながら追い風を期待する」ような行為に似ています。理論としては美しいのですが、足元の地面があまりにも現実的です。

 金融商品の設計には、しばしば「優しさ」が組み込まれます。月々の支払いを軽くする、選択肢を広げる、不安をやわらかく包み込む。しかしその優しさは、多くの場合、時間軸の後ろ側に負担を押し出すことによって成立しています。残価設定型は、まさにその典型例です。

 住宅ローンは本来、家を買うためのお金の話ではなく、「どのくらいのリスクなら引き受けられるか」という人生設計の話です。月々の支払いが軽くなるという事実は、家計にとって魅力的です。しかし、本当に問うべきは「軽くなった分の重さが、どこへ移動したのか」という点でしょう。

 残価とは、未来に対する静かな賭けです。その賭けに勝つかどうかは、市場でも金融機関でもなく、たいていは運によって決まります。だからこそ、安く買える仕組みほど、慎重に見つめる価値があるのだと思います。

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