アキバのつぶやき
2025.10.28
不動産営業のリアリズム
「ラプラスの悪魔」という概念があります。
18世紀の数学者ラプラスが唱えたもので、もし宇宙に存在するすべての粒子の位置と運動を完全に知る知性がいたなら、その存在は過去も未来もすべて予測できるという考え方です。
一見、理想的です。
すべての情報がわかれば、間違いのない判断ができる。つまり「この土地は上がる」「この地域は下がる」と未来を先読みできるということです。営業マン、不動産投資家にとっては、夢のような話です。
しかし、現実はまるで違います。
どんなにデータを集めても、人の心や経済の流れはは予測できません。昨日、日本の株価が初の5万円台を突破しました。予測できた人はどれだけの人が自信を持って言えるのでしょう。
金利が動けば買い手の心理が変わり、ひとつの事故物件報道で地域の印象が揺らぐ。SNSの口コミひとつで街の価値が変わることさえある。まさに“不確実性”が前提の世界です。
だからこそ、営業の本質は「コントロールできること」と「できないこと」を見極める力にあります。
相場や景気は変えられない。しかし、顧客に誠実でいること、地域を丁寧に観察すること、約束を守ること。これらは自分で選べる行動です。そこにこそ、成果の構造があるのです。
楠木建さんは、よく「ストーリーとしての競争戦略」という著書の中で次のようなことを言っています。
戦略とは、結果を当てることではなく、「なぜこのやり方で勝てるのか」という物語を積み上げること。不動産営業も同じで、顧客にとって“この人から買いたい””この人に売却を任せよう”と思われる関係を築けるかどうかが、すべての基盤になります。
ラプラスの悪魔のように未来を読み切ることはできません。
でも、「わからない中で、どう動くか」を考える力が人間の強みです。
市場を読むより、人を読む。未来を当てるより、信頼を積む。それが、不確実な時代を生きる不動産営業マンのリアリズムではないでしょうか。