アキバのつぶやき
2025.10.04
「好きこそものの上手なれ」の限界と不動産営業
「好きこそものの上手なれ」ということわざは、茶道や芸術のように自分の内側で深めていく営みにおいては説得力があります。好きで没入し続ければ自然に上達する。しかし、投資やトレードのように相手が存在するマーケットでは必ずしも通用しません。努力や情熱がそのまま成果に直結するわけではない。スポーツも同じです。どれだけ練習を重ねても必ず勝てる保証はないのです。
不動産営業も、この「相手がいる世界」の典型です。営業マンの中には「物件が好き」「人と話すのが楽しい」という理由で仕事を続けている人が多い。しかし、その「好き」が成果に変わるかどうかは別問題です。例えば、こちらが完璧だと思える物件を自信満々に紹介しても、お客様が「駅から遠い」と一言で却下すれば、努力は水泡に帰します。逆に、自分では大したことのない提案だと思っていたのに、お客様が「それならイメージに合う」と、興味を示されることもあります。
価格交渉の場面でも同じです。営業マンとしては「ここが限界」と考えて提示した条件が、お客様には響かない。ところが、数字よりも「子どもの通学に安心か」という一言に気を配っただけで、一気に心が動くこともあります。つまり、成果を決めるのは「自分の好き」や「努力の量」ではなく、相手の思いに反応するという構造なのです。
だからこそ不動産営業に必要なのは、「自己完結的な努力」ではなく、「相互作用的な学習」です。今日はなぜ契約に至らなかったのか、どの場面でお客様の表情が変わったのかを丁寧に観察し、次に活かす。好きで没入するだけではなく、相手を通して自分を更新していく。このサイクルを繰り返すことでしか、営業は成果につながりません。
「好きこそものの上手なれ」は不動産営業でも必要条件です。しかし十分条件ではない。相手がいる世界では、「好き」に加えて、相手とのインタラクションから学び続ける姿勢が不可欠なのです。