アキバのつぶやき

2025.09.22

伝えるから、伝わるへ!

 ビジネスの現場でよく耳にするのが「ちゃんと伝えたのに、伝わっていない」という嘆きです。会議で資料を説明した、メールを出した、あるいはプレゼンをした。確かに「伝える」行為はやっています。にもかかわらず、相手の行動や反応は期待通りにならない。ここに、「伝える」と「伝わる」の間の大きな断絶があります。

 「伝える」というのは、発信者側の作業です。資料を作り、言葉を発し、データを並べる。そこには自己満足が潜んでいます。「これだけやったんだから、わかってくれるだろう」という淡い期待。しかし「伝わる」という現象は、受け手の頭と心の中で起きることであって、発信者がコントロールできる範囲は限定的です。つまり、伝えることと、伝わることは別のゲームなのです。

 では、この溝をどう埋めるかが、課題となります。私の拙い経験から言えば、コツは「相手の物語に乗せる」ことです。人間は情報で動くのではなく、意味づけで動くといわれています。数字や論理は必要ですが、それがどのように相手の利害や感情に接続されるかが勝ち負けの分水嶺です。

 たとえば新しい企画を通したいなら、「市場シェアが伸びる」だけでは弱い。「あなたの会社の強みと直結している」あるいは「この取り組みが将来のキャリアにプラスになる」といった相手のストーリーに結びつけたとき、初めて情報が血肉化して、「伝わる」になります。


 さらに言えば、伝えるときの余白も重要です。すべてを説明し尽くすより、相手が自分の頭で補完できる余地を残した方が、理解が深まります。映画のラストシーンを観客の想像に委ねるように、「伝わる」体験は受け手の参加によって完成するのです。

 結局のところ、「伝える」は技術で、「伝わる」は現象。話し方の著書などを読んだり、話し方教室に通って技術を磨くことは、それは大事ではありますが、現象を引き起こすには、相手の立場や文脈に徹底的に感情移入し、相手の物語に寄り添う必要があると思います。

 「伝えたのに伝わらない」のではなく、「伝わる形に変換できなかった」と、考える方が生産的です。
要するに、伝えることは自己満足の出口、伝わることは相手の物語への入り口。この距離をどう設計するかが、ビジネスコミュニケーションの肝であり、本質だといえるのではないでしょうか。

コメント

コメントフォーム