アキバのつぶやき

2025.09.20

バカと無知を読んで・・・。

 橘玲さんの『バカと無知』を読んで印象に残るのは、人間は自分の無知を知らない、というシンプルかつ残酷な事実です。私たちは合理的に意思決定をしていると思い込みがちですが、現実はそうではない。むしろ「自分は分かっている」という錯覚こそが、組織や経営における最大のリスクになるのです。

 経営の歴史を振り返ると、この構造は至るところに見つかります。たとえば米国のブロックバスター。2000年代初頭、すでにネットフリックスがオンライン配信という新しいモデルを提示していたにもかかわらず、「DVDレンタルというビジネスは盤石だ」と信じ込み、変化に背を向けました。

 その結果、数年後には市場から姿を消しました。ここには「自分たちは分かっている」という過信と、無知を直視できなかった経営の失敗がはっきりと表れています。

 日本でも同じです。かつての携帯電話業界では、国内市場で勝っているメーカーが「ガラケーは日本の独自進化だ」と自信を持っていました。ところがiPhoneという外部からの衝撃が来たとき、対応が遅れ、市場は一変した。これもまた「自分は知っている」という錯覚が招いた典型例です。

 『バカと無知』の重要なメッセージは、「人は無知である」ことを前提にして問いを立て直す必要がある、という点です。経営において本当に大切なのは、将来を正しく予測することではありません。未来は誰にも読めないのですから。
 大事なのは、「自分たちが知らないことは何か」「どこに思い込みがあるか」「私たちのノンカスタマーは誰か」という問い持ち続けることです。

 問いの質を上げることで、経営の質も高まります。逆に言えば、問いを間違えれば、どれほど優れた戦略や計画も無意味になります。人間がバカで無知であるという前提を受け入れること。それは経営者にとって、自分の思考を謙虚に保つ最も現実的な方法論なのです。

 結局のところ、『バカと無知』は人間の限界を笑う本ではありません。むしろ「限界を前提にした賢さ」の手がかりを与えてくれる本です。過去の企業の失敗は、私たちの愚かさの証拠でもあるし、それを認めて問いを立て直せば、未来に向けての武器にもなる。バカと無知を嘆くのではなく、それを引き受ける。

 そこに経営と人生の共通点があるのだと感じました。

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